喫煙が関連しているといわれる疾患は数多くあり、その中で重篤な病気の代表格は「がん」「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」「心臓・血管障がい(心筋梗塞や狭心症)」の3つです。
たばこには発がん性物質と発がん促進物質の両方が多数含まれているため、肺がんだけでなく、さまざまながんを発生しやすくします。特に肺がんについては、喫煙者の死亡率、疾患率ともに非常に高い数値を示しています。肺がんのうち扁平上皮がんは「1日の喫煙本数×喫煙年数」が600を超えると、発症率が非喫煙者の21倍以上にもなり、腺がんも2.38倍となります。
2002年、世界保健機構(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、喫煙とたばこの煙のヒトに対する発がん性を、最新のデータに基づいて評価しました。その中で、喫煙とたばこ煙は、最も強い「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」と判定されています。下の表に、この評価の結果をがん種別に示します。
国際がん研究機関(IARC)による「喫煙とたばこ煙」に対する評価
※全体として、「グループ1:ヒトに発がん性がある」と判定されています。
がん種 |
喫煙の影響 |
||
因果関係の有無 |
期間・本数などによる影響 |
その他(組織型別など) |
|
口腔 |
◎ |
○ |
お酒との組み合わせでさらにリスクが高くなる。 |
鼻腔と副鼻腔 |
◎ |
○ |
組織型別(扁平上皮癌)に検討しても関連が認められる。 |
中咽頭と下咽頭 |
◎ |
○ |
- |
食道 |
◎ |
○ |
組織型別(腺癌、扁平上皮癌)。 |
胃 |
◎ |
○ |
お酒やピロリ菌の影響を除いても影響がある。 |
肝臓 |
◎ |
○ |
肝炎ウイルスの影響を除いても影響がある。 |
咽頭 |
◎ |
○ |
お酒との組み合わせでさらにリスクが高くなる。 |
肺 |
◎ |
○ |
がんの組織型別(扁平上皮癌、小細胞癌、腺癌、大細胞癌)に検討してもそれぞれ関連あり。 |
子宮頸部 |
◎ |
○ |
パピローマウイルスの影響を除いても影響がある。 |
尿路 |
◎ |
○ |
移行上皮癌だけでなく、腎細胞がんでも関連がある。 |
白血病 |
◎ (骨髄性) |
○ |
リンパ性白血病やリンパ腫については、研究報告が少なく、結果も一致していない。 |
(関連の有無)
◎:因果関係がある○リスク上昇と関連がある(期間・本数などによる影響)
○:期間が長い、本数が多いほどリスクが高い
資料:国際がん研究機関 ヒトへの発がん性リスク評価モノグラフ第83巻(2002年)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは長期にわたり、気道が閉塞状態になる病気の総称です。たばこの煙を吸うと吸入された毒素によって、免疫反応が引き起こされ、その結果増えているたんなどの排出物による気道の閉鎖がおこりやすい状態になります。たんを伴うせき、息切れが何年にもわたって続き、息を吐く時間がのび、ぜいぜいするという症状があります。ひどい場合には、体重減少や気胸(肺に穴があき空気が漏れて肺がしぼむ病気)、心不全や呼吸不全を伴います。
長い経過を経て至る状態でありそもそも気道や肺胞などの組織が破壊されてしまっていること、またたんなどによる気道の閉塞そのものなどから、肺炎などへの進行へつながりやすく、また階段や坂道をのぼるといった、ちょっとした日常生活の運動でも息切れが出てきます。重症の場合には、携帯用酸素ボンベなどを用いて、酸素を補充する必要があります。
肺気腫とは、呼吸細気管支と肺胞が拡張し、破壊される疾患です。肺は、酸素と二酸化炭素のガス交換を行う重要な場所ですが、長期間の喫煙や炎症にさらされると、このガス交換が効率よく行えなくなります。肺気腫の原因は不明ですが、肺気腫の患者さんのほとんどは、1日20本以上、20年以上の喫煙者という報告がなされています。
肺気腫は前兆というべき症状がほとんどなく、肺胞の破壊がかなり進行してから症状が出ます。自覚としては、体動時の息切れや息苦しさを感じてきます。その後、胸郭が前後に張り出したり、自分のペースで平地を歩いていても、安静にしていても呼吸困難を生じるようになります。肺気腫は進行すると、在宅酸素(日常の生活に酸素吸入が必要な状態)が必要になります。
たばこに含まれるニコチンと一酸化酸素の影響により、心臓や血管の障がいを起こしやすくします。
ニコチンにより心拍数の増加、末梢血管の収縮、血圧の上昇がおこり血管が損傷されます。そして、血圧の上昇、心臓や血管への負担の増加、血液中の粘調度の増加(血液がどろどろになります)を招き、心臓・血管障がいが起こりやすくなります。さらに、ニコチンの作用により、LDLコレステロールを変性させ動脈壁に浸透しやすくします。